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Channel: アヴァンギャルド精神世界
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映画『クライマー パタゴニアの彼方へ』 セロ・トーレ

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◎迷わない、迷えない、死

久々にものすごいチャレンジの映画。それが登山映画『クライマー パタゴニアの彼方へ』2014年。これぞ、死のスペクタクル化だった。

主人公は、主人公は、オーストリア人とネパール人(祖父はチベットから亡命してきた)の混血の若きデビッド・ラマ。2008年史上最年少の18歳でクライミング界のワールドカップ総合チャンピオンになった異才。彼が、南米パタゴニアの鋭鋒セロ・トーレ(3102m)に指とチョークのフリー・クライミングで登り切る話。

富士山より低い山なら簡単ではないかと思うが、これがナイフを逆さに立てたような花崗岩の山で、風速100m以上の風が頻繁に吹くので、頂上アタックするためには晴天で強風のない2日間を待って数か月麓で過ごすことになる。なおかつ3102メートルのうち1500メートルは、ほぼ垂直。

最初のチャレンジは、2009年だが、三度目のチャレンジで、やっと完全フリークライミングで、頂上に立つことができた。フリークライミングとは、安全のためにロープなどの身体確保具は使うが、岩のでっぱりや岩の割れ目などに指や足をかけて登り続けるもの。

セロ・トーレは歴戦の登山家たちが口を揃えてフリークライミングでの登頂は不可能の太鼓判を押していた。この登攀では頂上直下の垂直面が岩がもろく、最も不安を駆り立てたシーンだった。

落下してもロープで引っかかることになっているが、岩のもろさや突風で身体が流されたりすることは未知数である。指や足をかけるところを一歩一歩選ぶのだが、迷わない。迷ったら死があり得るので、迷えない。

だが、そうした精神的な震えは彼にはないように見えた。

これが彼の言うところの「最初に抱いたビジョンをぶれずにやり通すこと」なのかなと思った。そのビジョンは、彼によると第三の目かららしいがそれが岩を読む力で、岩を見たときにどうやって登るか、そのルートが直観で見え、かつ迷わないこと、自分の立ち位置を失わないことのようだ。

3度目のチャレンジにして、デビッド・ラマが、これは競技登山ではない、純粋に山を登ることだ、みたいなことをつぶやくのだが、それで一皮むけたことがわかる。

禅の公案の無門関第5則に、人が樹に上っていて、口には枝をくわえ、手を枝から放し、足は枝に乗せず宙ぶらりん。下に人が通りかかって仏法とか何かと質問してきた。答えなければわかっていないことになるし、口を開いて答えれば落下して死ぬ、というのがあるが、まさにこのことである。

山と空が美しい映画である。


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